
2024年度の障害福祉現場の賃上げ率は?低い理由や対策を解説

2024年10月、日本知的障害者福祉協会、全国社会就労センター協議会、全国身体障害者施設協議会の三団体が障害福祉現場の物価高騰と賃上げの状況調査の結果を公表しました。それによると、障害福祉現場の賃上げ率は他の産業に比べて大幅に低く、給与格差が顕著であることが報告されています。
本記事では、障害福祉現場の賃上げ率の現状や、賃上げ率が低い理由、給与格差によって生じるデメリットについて解説します。
・2024年度の障害福祉現場の賃上げ率は3.18%と、他産業の平均に比べて低め
・賃上げ率が低いままだと、人手不足の加速化やサービスの質の低下を招く原因となる
・賃上げや経営難の対策として、業務効率化やM&A、ファクタリングの利用などの方法がある
2024年度における障害福祉現場の賃上げ率は3.18%
日本知的障害者福祉協会など3団体は、2024年8~9月に掛けて同団体に所属する計1,343施設・事業所に対して合同で実施した障害福祉現場における物価高騰・賃上げ等の状況調査の結果を公表しました。
その結果によると、障害福祉現場の賃上げ額は7,779円、賃上げ率は3.18%だったそうです。賃上げ額は前年度4,899円に比べると約3,000円の上昇となります。
しかし、日本労働組合総連合会がまとめた同年実施の春闘の結果によると、フルタイム組合員の平均賃金方式における賃上げ率は5.10%、有期・短時間・契約等労働者の時給の引き上げ率は5.74%と、共に2000年代中盤以降では最大の引き上げ率を記録しています。
前述した障害福祉現場の賃上げ率とは2ポイント近い差があり、障害福祉現場と他の産業現場との間に大きな給与格差が生じている現状が浮き彫りになりました。
障害福祉現場を含む介護業界では、2024年度の報酬改定に伴い新たに介護職員等処遇改善加算が創設されたばかりで、賃上げも行われていました。それでも他産業との格差が生じたことに、調査を実施した三団体は強い危機感を抱いていることを表明しています。
(参考: 『全国身体障害者施設協議会「障害福祉現場における物価高騰・賃上げ等の状況調査」結果』)
(参考: 『日本労働組合総連合会「33年ぶりの5%超え!~2024春季生活闘争第7回(最終)回答集計結果について~」』)
障害福祉現場、介護業界の賃上げ率が低い理由
障害福祉現場を含む介護業界の賃上げ率が他の産業に比べて低い理由は大きく分けて4つあります。
介護報酬の制限
介護事業所が利用者から受け取るサービス費用(介護報酬)は、介護保険法の規定により、厚生労働大臣が社会保障審議会の意見を聞いて定めることになっています。そのため、他産業で起こりやすい価格競争が起こりにくいという利点がある一方、事業所の裁量でサービス費用の値上げを行うことができないというデメリットがあります。
介護職員に支払われる賃金は介護報酬を中心とした収益が元手になっているため、介護報酬そのものが大幅にアップしない限り、職員の賃金への反映は難しいというのが実状です。
専門性の低さを理由とした低賃金
介護には、介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)や、実務者研修、介護福祉士といったさまざまな資格があります。しかし、介護現場で働く上でこれらの資格は必須ではなく、無資格・未経験者であっても就労することは可能です。
求人のハードルは下がりますが、そのぶん専門性の高い産業に比べると賃金や給与の待遇は低い傾向にあり、賃上げ率が伸び悩む要因の一つとなっています。
人件費が高い
売上高に対する人件費の割合(人件費率)は産業や事業規模によって異なりますが、一般的な人件費率の平均は13%程度とされています。一方、介護事業所の収入に対する給与費の割合は、60%~70%台を占めている施設がほとんどです。
人件費が経営を圧迫している介護業界では、賃金や給与を簡単に上げにくく、賃上げ率が低迷する要因となっています。
(参考: 『厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査結果の概要 P3」』)
新型コロナや物価高の影響に伴う経営難
東京商工リサーチの調べによると、2024年1~8月における介護事業者の倒産件数は114件にのぼり、前年同期比44.3%増となりました。新型コロナウイルス感染拡大防止による休業や受け入れ人数の減少に伴う収益減に加え、近年の物価高の影響を強く受けたことが大きな原因とされています。
経営が厳しい状態では給与待遇も上げることができず、低賃金が常態化する要因の一つになっています。
介護業界における賃上げ率低下のリスク
介護業界における賃上げ率の低迷は、以下のようなリスクを生み出す原因となります。
人手不足の加速化
少子高齢化の現代日本では、介護需要が高まる一方、労働生産年齢人口の減少が顕著になっています。そのため、介護業界では人手不足の解消が急務とされていますが、賃金・給与待遇が改善されないままでは募集を掛けても応募してくる人材が少なく、十分な人手を確保できません。
介護サービスの質の低下
介護職は身体的・精神的な負担が大きい現場とされているため、労働に見合った対価が得られないと職員が不満を抱き、離職や転職が相次ぐ恐れがあります。現行よりも人手が足りなくなると、介護サービス全体の質が低下し、介護ニーズを満たせない可能性が高くなるでしょう。
介護業界が検討すべき賃上げ対策
介護業界の賃上げ率アップを実現するために、事業者が検討すべき対策を4つご紹介します。
業務効率化
人件費を削減するには、一人あたりの労働生産性を向上する必要があります。具体的な方法として、既存のワークフローや人材配置を見直す、システムやツールの導入で一部の業務を自動化するなどの方法が挙げられます。
一度現行の業務内容や業務体制を洗い直してみて、無駄の削減に努めましょう。
新加算の算定を目指す
政府は介護現場の改善を目的に、令和6年より処遇改善加算の制度を一本化した介護職員等処遇改善加算を創設しました。事業所が一定の要件を満たすと、介護職員に支払う給与を増やす資金(一人あたり月額3.7万円相当)が国から支給されます。
なお、新加算を算定するには、キャリアパス要件、月額賃金改善要件、職場改善等要件の3つの要件を満たす必要があるので、要件を満たすための体制や工夫の導入を積極的に進めましょう。
M&Aを検討する
M&Aで譲受け企業の経営資源を獲得すれば、経営基盤が強化され、職員の待遇を改善させることも可能になります。ただ、M&Aを行うには条件に見合う譲り受け企業を探さなければなりません。
自力で見つけるのは非常に手間と時間が掛かるため、M&Aの仲介サービスを利用した方がよいでしょう。
介護報酬ファクタリングを利用する
介護報酬ファクタリングとは、本来なら国保連に請求する介護保険給付金を、ファクタリング業者が前払いするサービスのことです。請求締め切り日および支払日は請求先である国保連によって異なりますが、当月10日締め切り、翌月末支払のルールになっているところが多く、請求から支払までに40~50日程度掛かってしまいます。
一方、ファクタリングは数日以内に入金されるケースが多いため、介護報酬債権を迅速に現金化できます。早期現金化によって資金繰りを改善すれば、賃金や給与改善に向けた経営立て直しを図りやすくなるでしょう。
【まとめ】賃上げ対策や経営難対策を積極的に採り入れよう
障害福祉現場をはじめとする介護業界は、介護報酬の制限や専門性の少なさなどにより、他の産業に比べると賃上げ率が低い傾向にあります。
賃上げ率がなかなか上がらないと十分な人手を確保できず、介護サービスの質の低下や人手不足の加速化などの問題がより深刻化する原因となります。
こうした問題を解消するためにも、業務効率化や新加算の算定、M&A、ファクタリングなどさまざまな対策を講じて労働環境の改善に努めましょう。
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